屋根勾配の下方先端部分を軒先と呼び、外壁から軒先までの距離を「軒の出」と言います。
それでは、切妻屋根の妻側(棟の両端部)の先端はなんというかというと「けらば」と呼び、外壁からけらばまでの距離を「けらばの出」と言います。
一般的な切妻屋根では「軒の出」も「けらばの出」も同じ寸法に設定することが多いので、ここでは「けらばの出」も「軒の出」に含まれるものとしてお話しします。
さて、軒の出(つまり外壁から屋根の先端部分までの距離)はどうして必要なのでしょうか。
それは屋根がどうして必要なのかを考えれば分かります。
屋根は雨から建物を守るためにあります。
そして強いひざしから建物を守るためにあります。
例えてみれば、人がさす傘(かさ)の役目をしているといって良いでしょう。
屋根は建物の雨傘(あまがさ)でもあり日傘(ひがさ)でもあるわけですね。
大きな傘であればあるほど、中にいる人間を雨からも日差しからも守ってくれます。
ですから、昔から「家の軒の出は長ければ長いほど良い」と言われてきました。
実際、古い御殿や社寺仏閣、民家でも豪邸などはいずれも長い軒の出をもっており、そのおかげもあって長い年月風雨に耐えてきたのも事実です。
ということで、家づくりの初めに当たって周囲の人から「軒の出は長いほど・・」という話がでたら、それはそれで一理あるのですが、でもそのまま鵜呑みにして、建築業者に「軒の出はとにかく長くしてほしい」との要望をだすのはいかがなものでしょうか。
昔と違って、今の家づくりにおいては、軒の出については少し違う考え方をしなければならないと思います。
そこでもう一度、先に例に挙げた「傘」について考えてみましょう。
傘は大きければ大きいほど雨に濡れないからといって、みんなが大きな傘を持っているでしょうか。
そうではありませんね。
大きな傘には以下のような欠点があります。
実はこれらは長い軒の出にも当てはまります。
そしてもう一つ、雨や強い日差しがなくなれば、傘ならば取り去ってしまえばよいだけですが、建物の一部である軒の出はそういうわけにはいきません。 日当たりが欲しい冬場であっても、軒はその日差しを遮ってしまうのです。
ですから、「敷地の広さにも金額面でも余裕があり、台風や地震対策がしっかりなされており、日当たりにも問題がなければ」という前提条件がつけば「軒の出は長いほど良い」ということになります。
さらに、まだ考えなければいけないことがもう一つあります。
最近、光触媒や親水性塗膜などを利用したセルフクリーニング仕様の外壁タイルやサイディング、塗料などが増えてきました。こういう商品は外壁につくほこりや汚れを勝手に洗い流して長い間美観を保ってくれるということで盛んにPRもされ、実際に採用せれる件数も増えてきました。
このような製品は外壁に光や雨が当たることが前提となっているため、長い軒の出で光や雨がカットされるのは却って都合が悪いことになります。長い軒の出で外壁に雨が当たらなければ汚れを洗い流せないわけなのです。
そんなわけで、敷地面積や法規、予算、使用材料、そしてデザイン等々を総合的に考え合わせて、軒の出寸法を決めるようにしたいものです。
私は一般的な住宅であれば軒の出60cm、セルフクリーニング仕様の外壁の場合は45cmにすることが多く、90cm以上の軒の出にすることは滅多にありません。