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マイホームの新築時に気をつけておきたい注意点

業者選びについて 

「分離発注の方がローコスト」

分離発注説明図

家づくりを一つの業者に全て任せてしまっている一般的な建築請負契約とは異なり、最近は建築設計事務所に家づくりを依頼するケースも増えてきています。

昔は建築設計事務所に依頼するのはデザイン優先の本格和風住宅や鉄筋コンクリート住宅、或いは店舗併用住宅などといった意匠的にも構造的にも少し特殊な住宅に限られていましたので、建築費も少し割高になるのは覚悟の上で依頼していたのが一般的でした。
しかし、最近は「分離発注によるローコスト化」がメリットとしてクローズアップされるようになってきたのです。

分離発注とは、設計や監理を設計事務所に依頼し、工事そのものは建築業者に依頼するなど、依頼する分野毎に個別に契約を結ぶ方式をいいます。
発注先がこの二つだけとは限らず、設計だけをA建築事務所に発注し、監理は別のB設計事務所に発注、建築本体工事はC工務店に発注し、電気や給排水はD設備会社に、台所に関してはEキッチン会社に、外構はF造園に発注するなど、とにかく複数業者を相手にして家づくりを分離発注することをいいます。
ただこうなるとかなり建築知識や建築ネットワークを持ったスキルが必要となりますので、一般的にはそれを取りまとめてくれる建築設計事務所にお任せするスタイルが多いと思います。
つまり、ある建築設計事務所と設計監理契約を結ぶと、その事務所が日頃取引のある建築業者や設備業者や職人や建材屋などから見積もりをとるなどして施主に紹介し個別に発注させるという流れとなります。価格が合わなければ設計事務所が別の業者から見積もりをとったり設計をやり直したりして調整もしてくれます。

分離発注工事中の写真


このような分離発注方式のメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

  1. ハウスメーカーなどの中間マージンがカットできるので価格が下げられる。
  2. 営業マンではなく建築のプロとしての設計者と綿密な打ち合わせができる。
  3. 実際に現場を担当する人たちとのつながりを感じられるので施主としての参画感が高い。

このようにメリットも多い分離発注方式ですが、本当に多くの人におすすめできるシステムかというと、実は以下のようなデメリットがあることも確かです。

  1. スケールメリットを期待し難い。
  2. 責任の所在が明確にならない。
  3. アフターメンテナンスが疎かになりやすい。
  4. 保証能力が低い。

少し詳しく説明していきますと、

【スケールメリットを期待し難い】
受ける側からすると注文それぞれが小口でありしかも均一化されていないのでコストダウンが難しいということです。例えば基礎工事業者がハウスメーカーから受注する場合と設計事務所からの場合を比較してみると、前者の場合は基礎断面が規格化されている上に受注数量も多いので同じ材料を多量に定期購入できるし治具なども使いまわしができますが、後者の場合はその物件毎に手配するためにどうしてもコストダウンが難しくなります。
それに加えて、前者は前もって一定数以上の発注件数の確保と引き換えに低価格で単価設定するのに対して、後者はどうしても件名ごとの個別見積もりとなりますので単価は高めとなりがちです。
施主からするとたしかに中間マージンは少なくなりますが大元の原価は高めになる傾向があるのです。

【責任の所在が明確にならない】
各業者と別々な契約を結ぶことから、なにかトラブルが起こったときにそれぞれの業者が責任回避をしがちとなります。
例えば、工期が遅れそうになると前工程の業者や無理な工程を作った設計事務所のせいにしたり、床のきしみがあれば大工と基礎屋が責任を押し付け合ったりというようなことです。

【アフターメンテナンスが疎かになりやすい】
ハウスメーカー等では定期点検制度があったり、メインテナンス専門のサービス部門があったりと、組織的に対応できるようになっていますが、分離発注の場合はまとめ役の設計事務所がメインテナンスを行うのではなく、個別に契約した個々の業者が行うことになります。当然、零細な業者もありますので対応が疎かになることもあるでしょう。
例えば地震などで屋根瓦が落ちて雨漏りするようなときに、分離発注で地元の瓦屋さんに工事をしてもらったような場合は、電話しても中々つながらなかったり、修理を後回しにされたりすることが多いと思います。なぜなら、その瓦屋さんの工事エリアが被災エリアと重なっている為に同様の依頼が多すぎて急には手が回らなくなるからです。
そういう場合に大手のハウスメーカーは被害を受けていない他県からでも応援を呼び寄せて応急の対応ができる可能性が高いのです。(実際に災害時に応援部隊を送り込んでいるハウスメーカーは数多くあります)

【保証能力が低い】
ハウスメーカーや建築会社は大手になればなるほど資金力が豊富(もちろん例外もありますが)であるといえるでしょう。
資金力が豊富であるほど保証能力が高いということも(例外はありますが)自明の理です。
なぜなら契約書にいくら優れた保証条項が書いてあったとしても、その業者が倒産、そこまでいかなくてもその保証を実行できる資金的な余力がない場合、その保証は絵に描いた餅にすぎないわけです。逆に、資金力が豊富にあれば、本来保証責任がないトラブルであっても宣伝効果も兼ねて迅速な対応をしてくれる可能性もあります。
分離発注の場合は、その相手先の多くは零細業者である可能性が高いわけで、資金的な余裕がある所は少なく、どうしてもメインテナンスそのものに及び腰になります。
そういう心配があるからこそ、分離発注を薦める事務所は、外部の住宅保証会社に保証料を出して保証してもらうシステムを取り入れて「万が一の場合も保証があるから安心」とPRしているケースが多いのですが、この種の保険は実際には免責事項が多かったり、どの業者に瑕疵があるかの認定に手間がかかったりと、実際の保証を受けるまでのハードルはかなり高いのが実情です。

以上、分離発注方式の家づくりについていろいろ申し上げましたが、メリットばかりが強調される報道をいくつか目にしたばかりなので、あえてデメリットについても書かせていただきました。 大雑把に言えば 「個性的な家づくりをとるか、安心な家づくりをとるか」の違いだと思えば良いでしょう。
私自身は分離発注方式で家を建てていますが、それは自分で設計監理したからであって、そうでなければこの方法はとらなかったでしょう。事実そのときに発注した業者の約半数は倒産や廃業しておりますので、そういう不安があることだけは覚えておかれたほうが良いかと思います。




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