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自分の敷地内にどのような家を建てるかは基本的に自由なはずですが、次の二点だけは必ず守る必要があります。
一つは関係法令を遵守すること、そしてもう一つ他人に迷惑をかけないことです。法律を守らなければ罰則があり、他人に迷惑をかければ損賠賠償責任を負うことにもなりますから当然ですね。
ということで、建てる家の方については色々と気にかける人も多いと思うのですが、土地形状の変更についてはあまり気にかけない事例も多く見られます。
特に、土地を盛り上げる場合ではなく、土地を掘り下げることに無頓着なケースが目立ちます。つまり、「自分の土地だから掘るのは自由」という考え方ですね。まあ、実際にトラブルが有った場合にもそんな言葉をよく聞きます。
土地に土を盛り上げる場合はその盛り土が崩れないように一定以上の傾斜をつけるか適切な土留措置を講じるわけで、そうしないと土地の形状が安定しないので必然的にそうするわけですが、切土の場合は割と安定しているのでついつい適当に掘ってしまうのですね。しかし、盛り土よりも安定しているとはいえ所詮土ですからやはり適切な土留措置は必要です。
大規模な造成などではこのように土地の形質の変形をともなう工事は事前の許可や届出が必要となる場合が多いのですが、戸建住宅の外構工事程度ではそのようなチェックシステムが無い、或いはあまり働かないのが実情です。
具体的に問題になるのは以下のようなケースです。
これは本当によくあるケースです。建築用ブロックが土留としてはあまり効果が無いのは「しっかりした土留があるから大丈夫」でも述べましたが、高低差が50センチ以上の場合は擁壁用コンクリートブロックや型枠コンクリートブロック、RC擁壁などでしっかりした土留を作ってやらねばなりません。
これも1と同様によくあるケースですが、隣家が境界近くに建っている場合はその建物荷重も考慮した土留を作らなくてはなりません。詳しくは地盤強度や隣家基礎断面によって違いがありますが、水平距離にして概ね高低差の1.5倍以上離れていないのであれば、このような考慮は当然必要になります。
このような隣接家屋荷重まで考慮した場合は、構造計算に基づいて逆L型鉄筋コンクリート造擁壁を作るのが正しいのですが、手間や時間、(そして一番の理由である)コストを省くために簡易的な土留でごまかされているケースも結構あります。
隣地の擁壁がどんな構造になっているにせよ、その擁壁底の埋め込み深さというものは計算上決められています。このケースはその埋め込み深さを無くしてしまうことになりますから、非常に不安定な構造になり大変危険です。どうしてもそうせざるを得ない場合はしっかりした構造計算を元に隣家の方の了解を得て補強工事をすすめる必要があります。
上記いずれの場合にも地盤面を変更する場合はそれなりの配慮をする必要があるのに、「自分の土地だから掘るのは自由だろう」という発想が根底にあるのは確かでしょう。
昔の話ですが、周囲が畑だった場所に1.5m程度の盛り土をして境界部にL型擁壁を作ったことがあります。隣地がそのまま畑だったら問題なかったのですが、ある時それを水田に変更されてしまったのです。
水田となれば当然水を張らなくてはなりませんから耕作土の下にある安定地盤面は低くなります。その結果擁壁底が浮いてしまった、つまり埋め込み部が無くなってしまったのです。もちろん、あとから土地の形質変更をした隣地側に責任があるのですが、「自分の土地だから・・」との感情論も絡んできてかなり揉めた記憶があります。