こちらもどうぞ!聴覚障害を扱った物語
聾者、突発性、中途失聴、老人性難聴者などが送る様々な人生
作 丸山正樹
荒井尚人は両親兄弟全てに聴覚障害がある「ろう者の家庭」の中にあって、ただ一人の聴者としてこの世に生を受けました。それが為に必然的に覚えた日本手話でしたが、ある事件が元で警察事務の職を追われたあと、ハローワークでの就労活動がなかなか進まない中でも、そのおかげで手話通訳士の資格をとり生活の糧をうるようになります。幼いころより家族全員の通訳士とならざるを得なかった経験が生き、思わぬ仕事も舞い込み、通訳士としての評判も高まるのですが、奇縁とも呼ぶべき人物との出会いから、過去から現在に至るある事件の渦中に巻き込まれることになります。
聴覚障害者を扱ったサスペンスではあるのですが、これほど聴覚障害そのものが話の幹となっている小説は数少ないのではないでしょうか。そういう意味でも、最後の最後までとても面白く読むことができました。
以下、本文の中から心に残るフレーズを一部抜粋してご紹介します。
荒井は裁判長のほうに再び向き直った。
「個別の言葉の意味は分かっても、『黙っている権利がある』という”概念”がわからないのだと思います」
ふむ、と裁判長は肯いた。そして、両隣の裁判官と顔を見合わせ、何やら言葉を交わす。さらに、検察官と弁護士を前へ呼んだ。
三者による話し合いが始まった。こちらまで声は届かないが、おそらくこのまま公判を続けていけるか協議しているのだろう。
半ば予想した事態ではあった。そもそも手話によるコミニケーションでは、具体的で映像が浮かびやすい事柄を伝えるのには困らないが、観念的・抽象的なことを伝えるのは難しいと言われている。その上、菅原のようにホームサインのような手話しか使ってこなかった者が、「言いたくない事は言わなくていい」、しかし「言いたい事は言ってもいい」、だが「言った事は不利の証拠になることもある」などと続けられては、何を言われているのか分からなくなっても当然だった。
だがーー。と、再びその疑念が広がっていく。
それでは警察の取調官は、検事は、どうやって彼に「黙秘権」を伝えたのか。
いまだ彼らは、あの頃のまま、ずさんな取り調べをしているのかーー。
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