透視とは遮蔽物の向こうにある物体を見ることができる能力であり、千里眼とはかなり離れた場所にある物体について知覚できる能力です。
ただ、この2つは遮蔽物(の大きさ、重さ、距離)が何であるかの違いだけでハッキリ区分けできないので、ここでは同じ項目として扱っています。
透視という言葉ですぐ思い出すのは「スーパーマンのX線透視」です。コンクリートの厚い影の向こうにいる悪人の行動を透視するわけですが、(鉛には遮られるという設定だったので)悪人が鉛を張り詰めた室内に閉じこもるという場面があり、子供心にヤキモキした覚えがあります。
千里眼と云うと、明治期の御船千鶴子や長尾郁子の千里眼事件が有名です。これは大きな社会問題にまでなったようですが、結局は超能力ではないという結論になったようです。私もこの事件に関する文献を色々読みましたが、千里眼という能力を証明できるなにものも発見できなかったことがよくわかりました
さて、では千里眼事件の当事者は嘘つきや詐欺師だったのかというと、いちがいにそうだとも言い切れません。
人間の器官というものは実に複雑にできています。簡単に「ものを見る」といいますが、眼という器官で見た映像をすべて我々が認識しているかと云うとそれは違います。
眼の網膜に映った映像を視神経が電気信号に変換して脳に送り、それを脳が勝手に解釈して「見る」わけです。
結局は脳が見るものを決定しているので、実際に眼に映った映像でも脳は見なかったことにできるし、眼にはなにも入ってこなくても脳は見たことにできるわけです。
これは、浅い夢を見ているときに自分で確認できることですが、夢を見ている途中で「ああ、これは夢だな」と感じるときがあります。そのときに自分がなにを見ているのか考えてみると、実にはっきりした情景を見ていることに気づきます。夢で眼を閉じていることは判っているのに、夢の中の室内の襖柄や掛け軸の絵までがハッキリを見えることがあります。外の景色などは自分が行ったことのない場所であってもかなり詳細に知覚できるのでびっくりするでしょう。もちろん、目が覚めたあとは忘れてしますようにできているのでその記憶もぼやけてしまうのですが、事程左様に「見える」ものというのは当てにならないものなのです。
さて、話は透視にもどりますが、遮蔽物があればその向こうの映像が網膜に映らないのは(物理的に)明白ですね、スーパーマンではありませんから。
しかし、網膜にはなにも写っていなくても脳が「なにかが見えている」と感じることはあるでしょう。先程、夢の例でお話したとおりです。そして、目が覚めていてもそれが頻繁に起こるという人がいるかもしれません。
そういう人が自分に見えているなにかを語ることは嘘つきでも詐欺師でもなんでもありませんから、御船千鶴子や長尾郁子などは自分では本当に見えていると感じていたのかもしれません。
しかし、どう見てもこれはおかしいと感じるのは超能力捜査番組です。
テレビで時々放映される(元FBIで捜査協力していたという触れ込みの)超能力捜査官による事件捜査ですが、あれを見ていると実にバカバカしいくらい曖昧な表現で犯行現場や犯人の潜伏場所、行方不明者の滞在先、あるいは犯人の特徴や似顔絵といった捜査情報が提供されます。その曖昧な情報を元に、番組スタッフが無理やりそれに合わせて該当地域や犯人像を絞り込んで行くわけです。
そのこじつけ方が面白くて時々見ているのですが、その内容というのが「水に関係する場所です」とか「高い建物が見えます」とか「なにか金属的な音が聞こえます」というように実に曖昧な表現なんですね。せめて「四角い形の池があります」とか「テレビ塔が見えます」とか「チャペルの鐘が聞こえます」程度のことは言ってもらいたいものです。これは、占い師が相手を信用させる手段として「ほとんどの人に合致する曖昧な表現で相手の性格を当てる」のと同じ手法なのです。「あなたは今心配事を抱えていますね。」と言われればほとんどの人は「実はそうなんです」となるでしょう。だれでも大なり小なり心配事を抱えているものです。
さて、その超能力捜査の結果はというと、案の定、なにも事件解決にむすびついたものはありませんでした。
さて私は、これまでに科学的に立証されたものがなに一つ無いことを透視・千里眼などの能力が存在しないことの理由としています。トランプを使った手品で、観客が適当に選んだ裏向きのカードを当てるというのがありますが、あれには当然種も仕掛けもあって、科学的に検証すれば誰でも「透視や千里眼ではない」ことを知る事ができます。自分で買ってきたトランプの中の一枚を裏向きに選んで「さてこのカードはなんでしょう」と問えばいいだけです。これに正解してくれるだけで透視能力の存在を立証できるのすが、その程度のことさえ未だにだれも成功したものはありません。
これまでに、自分には透視や千里眼能力があると公言している人で大金持ちになった人はいません。
もし、私に透視能力がそなわっているとしたら、まずはラスベガスに行ってポーカーゲームをします。相手の手札が判るのですから負けるはずはなく、たちまち大金を手にできるでしょう。賭け麻雀でも丁半博打でも、とにかく賭け事なら無敵の強さを発揮するはずです。丁半博打なら100%当たるので時々わざと間違えるようにしないとイカサマ野郎ということで袋叩きにされかねません。
別に違法な賭け事をしなくても、いろいろな仕事の中で応用すればいくらでも稼げるはずで、億万長者とはいかないまでも、かなり裕福な生活が送れるはずです。それなのに、そういう自称千里眼能力者は占いによる手数料や寄付、うまくいけばテレビ出演料が入る程度で、それほど裕福に暮らしているという人は見かけません。もっとも私が知らないだけかもしれませんが、私なら自分の能力はひた隠しにしてお金儲けに励みますが。